ヘスの法則は、既知のエンタルピー変化をもつ他の反応を足し合わせて、ある反応のエンタルピー変化を求める方法を説明する法則です。これが成り立つのは、全体の ΔH\Delta H が途中の経路ではなく、初期状態と最終状態だけで決まるからです。

要するに、化学反応式を足し合わせて目的の反応式になるなら、それらのエンタルピー変化も足し合わせることができます。ただし、これは同じ条件のもとで、同じ物質が同じ物理状態で書かれている場合に限って有効です。

化学におけるヘスの法則の意味

同じ化学系を、ある反応物の状態からある生成物の状態へ、2つの異なる経路で変化させる場面を考えてみましょう。初期状態と最終状態が同じなら、全体のエンタルピー変化も同じになります。

これが、ヘスの法則が熱化学で重要な理由です。反応エンタルピーの中には直接測定しにくいものもありますが、同じ全体変化を、すでに ΔH\Delta H がわかっている反応の組み合わせで表せることがよくあります。

この考え方は通常、次のように書かれます。

ΔHoverall=ΔH1+ΔH2+ΔH3+\Delta H_{overall} = \Delta H_1 + \Delta H_2 + \Delta H_3 + \cdots

この関係が成り立つのは、調整した反応式を本当に足し合わせたときに、目的の反応式になる場合だけです。

ヘスの法則で ΔH\Delta H を計算する方法

次の手順で進めます。

  1. 目的の反応式を正確に書く。
  2. それを作れるように並べ替えられる既知の反応を選ぶ。
  3. 必要なら反応式を逆向きにし、そのとき ΔH\Delta H の符号も反転させる。
  4. 必要なら反応式に係数をかけ、そのとき ΔH\Delta H にも同じ倍率をかける。
  5. 反応式を足し合わせ、両辺に現れる化学種を打ち消す。

反応式に対する代数操作と、ΔH\Delta H に対する代数操作は必ず対応していなければなりません。一方を変えたら、もう一方も同じように変える必要があります。

例題:CO2CO_2 生成の ΔH\Delta H を求める

次の反応のエンタルピー変化を求めたいとします。

C(graphite)+O2(g)CO2(g)C(graphite) + O_2(g) \rightarrow CO_2(g)

そして、次の2つの反応がわかっているとします。

C(graphite)+12O2(g)CO(g)ΔH=110.5 kJ/molC(graphite) + \frac{1}{2}O_2(g) \rightarrow CO(g) \qquad \Delta H = -110.5\ \mathrm{kJ/mol} CO(g)+12O2(g)CO2(g)ΔH=283.0 kJ/molCO(g) + \frac{1}{2}O_2(g) \rightarrow CO_2(g) \qquad \Delta H = -283.0\ \mathrm{kJ/mol}

これらを足し合わせると、

C(graphite)+12O2(g)CO(g)CO(g)+12O2(g)CO2(g)\begin{aligned} C(graphite) + \frac{1}{2}O_2(g) &\rightarrow CO(g) \\ CO(g) + \frac{1}{2}O_2(g) &\rightarrow CO_2(g) \end{aligned}

となります。CO(g)CO(g) は両辺に現れるので打ち消されます。また、2つの 12O2(g)\frac{1}{2}O_2(g) を合わせると O2(g)O_2(g) になるので、全体の反応は次のようになります。

C(graphite)+O2(g)CO2(g)C(graphite) + O_2(g) \rightarrow CO_2(g)

次に、エンタルピー変化を足し合わせます。

ΔH=110.5 kJ/mol+(283.0 kJ/mol)=393.5 kJ/mol\Delta H = -110.5\ \mathrm{kJ/mol} + (-283.0\ \mathrm{kJ/mol}) = -393.5\ \mathrm{kJ/mol}

したがって、黒鉛と酸素から CO2(g)CO_2(g) を生成する反応のエンタルピー変化は

ΔH=393.5 kJ/mol\Delta H = -393.5\ \mathrm{kJ/mol}

です。

これがヘスの法則の基本パターンです。毎回新しい公式が必要なわけではありません。必要なのは、目的の反応になるように組み合わさる反応式と、符号の変更や打ち消しを丁寧に行うことです。

なぜエンタルピーをこのように足し合わせられるのか

ヘスの法則が成り立つのは、エンタルピーが状態関数だからです。状態関数は、系がどのような経路でその状態に至ったかではなく、その状態そのものにだけ依存します。

これは、経路に依存する量との大きな違いです。2つの経路が同じ状態から始まり、同じ状態で終わるなら、全体のエンタルピー変化は一致しなければなりません。もしそうでなければ、エネルギーのつじつまが合わない循環を作れてしまいます。

ヘスの法則でよくある間違い

反応を逆にしたのに符号を変え忘れる

化学反応式を逆向きにしたら、対応する ΔH\Delta H の符号も変えなければなりません。発熱反応を逆にすれば吸熱反応になり、その逆も同様です。

ΔH\Delta H の倍率を変え忘れる

反応式を 22 倍したなら、ΔH\Delta H22 倍しなければなりません。エンタルピー変化は、書かれた反応量に比例します。

間違った化学種を打ち消す

化学種を打ち消してよいのは、反応式を並べたあとで左右反対側に現れる場合だけです。2つの式で同じ側に現れているなら、打ち消すことはできません。

物理状態を無視する

熱化学では状態が重要です。H2O(l)H_2O(l)H2O(g)H_2O(g) は同じものとして扱えません。状態を間違えると、目的の反応式もエンタルピーも誤ってしまいます。

ヘスの法則が役立つ場面

ヘスの法則は、ある反応のエンタルピーを直接測定するのが難しい一方で、関連する反応がわかっているときに使われます。初学者向けの化学では、生成エンタルピー、燃焼データ、反応サイクルと一緒に登場することがよくあります。

また、熱化学の考え方が正しいかを確かめる手段としても有用です。反応式がきれいに組み合わさって目的の反応にならないなら、エンタルピーの和はまだ使える状態ではありません。

類題の熱化学問題に挑戦してみよう

自分でも、目的の反応式と3つの既知の熱化学方程式から始めて、足し合わせる前にどれを逆向きにしたり何倍かしたりする必要があるかを考えてみましょう。次に関連する内容として学ぶなら、エンタルピーとエントロピー と比べてみると、ΔH\Delta H の役割が熱力学全体の中でどう位置づけられるかが見えてきます。

問題の解き方でお困りですか?

問題をアップロードすると、検証済みのステップバイステップ解答が数秒で届きます。

GPAI Solver を開く →