統計力学は、系に存在しうる膨大な数の微視的状態が、エネルギー・エントロピー・圧力のような予測可能な巨視的量をどのように生み出すかを説明します。基本的な考え方はシンプルです。許される微視的状態を定め、物理的な設定に合った確率を割り当て、それらについて平均を取ります。
多くの学生にとって、この分野は2つの考え方がはっきりすると理解しやすくなります。ボルツマン分布は、温度一定の熱平衡で確率がエネルギーにどう依存するかを教えてくれます。アンサンブルは、系の制約条件にどの確率モデルが対応するかを示します。
統計力学とは何か
**微視的状態(microstate)**とは、系の完全な微視的配置のことです。**巨視的状態(macrostate)**とは、エネルギー・温度・体積・粒子数が決まっている、といった粗視化された記述です。
同じ巨視的状態を与える微視的状態は、たくさん存在しえます。だからこそ、状態を数え上げ、正しく重み付けすることが重要です。統計力学は力学を置き換えるものではありません。粒子が多すぎて1つずつ追跡できない系を予測するための、実用的な方法を与えるのです。
ボルツマン分布が成り立つとき
系が温度 の熱浴と熱平衡にあるなら、正準アンサンブルでは、エネルギー をもつ微視的状態の確率は
で与えられます。
ここで規格化定数は
です。
これは離散的な微視的状態に対するボルツマン分布です。 は分配関数と呼ばれ、確率の総和が になるように規格化します。低エネルギー状態ほど大きな重みをもちますが、高エネルギー状態も依然として起こりえます。
重要なのは、この条件付きで成り立つという点です。この式は統計力学のあらゆる問題に使える万能な法則ではありません。系が平衡にあり、熱浴とエネルギーを交換できるため温度が一定であるときに適用されます。
どのアンサンブルが物理的設定に対応するか
アンサンブルとは、ある物理的設定に対応する確率モデルです。標準的な3つの場合は次のとおりです。
ミクロカノニカルアンサンブル:エネルギー一定
孤立系で、エネルギー・粒子数・体積が一定のときに使います。平衡では、到達可能な微視的状態はすべて等確率とみなされます。
カノニカルアンサンブル:温度一定
系が熱浴とエネルギーを交換できるため、温度は一定だが系のエネルギーはゆらぎうる場合に使います。ボルツマン分布が現れるのはここです。
グランドカノニカルアンサンブル:温度と化学ポテンシャル一定
系が熱浴とエネルギーだけでなく粒子も交換できる場合に使います。温度と化学ポテンシャルは一定で、粒子数はゆらぎます。
要点はシンプルです。アンサンブルは名前だけ違う交換可能なラベルではありません。それぞれ異なる物理的制約を表しています。
例題:ボルツマン因子と縮退の競合
ある系が温度 の正準アンサンブルにあるとします。微視的状態は4つあります。
- エネルギー の基底状態の微視的状態が1つ
- エネルギー の励起状態の微視的状態が3つ
とします。このとき各励起微視的状態のボルツマン重みは
です。
基底状態の微視的状態の重みは なので、分配関数は
となります。
これで、各確率は重みを で割るだけで求まります。
基底状態の微視的状態の確率は
です。
各励起微視的状態の確率は
です。
ただし、励起エネルギー準位の確率は、3つの励起微視的状態すべてについて足し合わせたものです。
この例は、中心となる競合をはっきり示しています。エネルギーは確率を下げる方向に働きますが、多重度は確率を上げる方向に働きます。より高いエネルギー準位でも、それを共有する微視的状態が多ければ無視できません。
つかんでおきたい基本的な直感
ボルツマン因子は低エネルギーを有利にします。状態数の多さは多重度を有利にします。平衡での振る舞いは、その両方で決まります。
だからこそ統計力学は、よく知られた巨視的パターンを説明できます。熱容量、磁化、理想気体の振る舞い、相転移はすべて、系の制約のもとでエネルギーと多重度がどう競合するかに依存しています。
統計力学でよくある間違い
設定を確認せずにボルツマン分布を使う
ボルツマン分布は正準平衡に対するものです。系が孤立している、外部から駆動されている、あるいは非平衡であるなら、いったん立ち止まって仮定を確認する必要があります。
エネルギー準位と微視的状態を混同する
複数の微視的状態が同じエネルギーをもつなら、そのエネルギー準位の確率を得るには確率を足し合わせなければなりません。縮退を無視すると、物理的に誤った結論になることがあります。
すべてのアンサンブルを名前が違うだけの同じ考えだと思う
アンサンブルは問題設定の一部です。エネルギー一定と温度一定は、同じ物理条件ではありません。
指数の中で摂氏温度を使う
の は絶対温度なので、ケルビンでなければなりません。
統計力学はどこで使われるか
統計力学は、微視的にはランダムでも巨視的には安定した振る舞いが現れる場面で使われます。気体、固体、磁性、化学平衡、放射、半導体、多体系量子系などがその例です。
実際には、この分野はしばしば熱力学と微視的物理をつなぐ橋渡しになります。熱力学は巨視的に何が起こらなければならないかを教えます。統計力学は、その理由を説明する助けになります。
類題に挑戦してみよう
同じ4状態の例を使い、ギャップを から または に変えてみましょう。 と励起準位の確率を計算し直してください。この1問だけでも、エネルギーが支配的になる場合と、多重度がなお重要な場合の直感がかなり養われます。